症例紹介
会陰ヘルニアを整復した犬(会陰ヘルニア整復術+直腸腹壁固定術)
2023/08/02/
主訴
排便に時間がかかると来院されました。(未去勢犬)
検査
直腸検査を含めた触診にて右側の会陰ヘルニアと診断しました。
血液検査やエコー検査などから麻酔リスクも大きくないと判断されたため、手術を行うことになりました。
※会陰ヘルニアとは、会陰部(簡単に言えば肛門周囲)にある複数の筋肉が薄くなり、その筋肉の隙間からお腹の中の臓器や脂肪組織が飛び出てしまう病気です。
ケースにもよりますが、“肛門回りにしこりができた”、“肛門の周りが腫れてきた”ような外貌になる子もいますし、見た目は変わらなくても「排便に時間がかかる」、「便が太くなって出しにくい」、「便秘になった」などの症状が出る子もいます。
男性ホルモンにより会陰部の筋肉が萎縮することで起こる為、一般に未去勢の雄犬に多いとされますが、稀に雌犬にもみられます。
その原因としては、ひどい咳やよく吠えるなど、腹圧がかかりやすい状態が続くことなどが考えられています。
発症してしまった場合、治療法は外科療法(手術)となりますが、手術を行ったとしても一定数再発してしまう例があるとされています。
治療:外科手術
この症例は、直腸検査にて直腸の蛇行(たるみ)も認められた為、結腸(直腸)固定術も同時に行いました。(写真①) また、男性ホルモンが原因の為、去勢手術も同時に行います。
上記手術(結腸固定術、去勢術)は犬を仰向けにしてお腹を切って行っていますが、会陰ヘルニアの整復はうつ伏せで行うため、お腹を閉じた後に麻酔をかけたまま体位変換をして、手術を続けます。
会陰部(本例は右側のヘルニアのため肛門の右側)を切開し、ヘルニア部を確認しています(写真②)。
写真③は孔が見やすいようにガーゼで脂肪をお腹の中に押しています。
実際にはガーゼは抜いて、お尻周りの筋肉を縫い合わせて孔を塞ぎます(写真④)
ヘルニア孔が大きく、筋肉を用いての整復(孔をふさぐ)が難しい場合は人工材料(シリコンメッシュ)をもちいて閉鎖を行います(本例に関しては人工材料を使ってはいません)。
本例は術後数日で退院し、術後の排便はスムーズでQOLの向上が認められました。
写真➄は術後一週間程経過した術創の写真で、左がお尻のもの、右がお腹のものです。
獣医師からのコメント
犬の会陰ヘルニアは去勢手術によって発生率が確実に低下する病気であり、繁殖にかかわらないのであれば去勢手術を勧める大きな理由の一つとなります。
この他に去勢手術のメリットとして、雄性腫瘍の予防、前立腺疾患の予防、肛門周囲腺腫(ホルモン依存性のもの)の予防等が挙げられます。
去勢手術後に若干太りやすくはなってしまう子が多いものの、まだ手術をされていらっしゃらない飼主様はご一考頂ければと思います(高齢のワンちゃんの場合は持病によっては勧められない場合もありますのでご相談ください)。
鴨宮動物病院では、健康診断やワクチンなどの予防医療から外科手術までを幅広く診療対応しております。